東京・赤坂の個室サウナで起きた火災で、亡くなった2人が美容の仕事を営む30代の夫婦だったことが分かった。 報道では、サウナ室のドアノブが内側・外側とも外れて落ち、扉が開かず閉じ込められた可能性が指摘されている。 さらに現場検証では、サウナ室に備え付けの非常ボタンが電源が切れた状態だった疑いも浮上し、店側の安全管理をめぐる論点が一気に増えた。
ただし、現時点では「火災」と「死亡」を直接結びつける決定的な事実は明らかになっていないともされ、 警視庁は司法解剖で死因を調べつつ、事故と事件の両面で捜査している。 本記事は、報じられている内容をもとに、いま分かっていること/分かっていないことを整理し、 個室サウナの安全対策が抱える“盲点”を考える。
亡くなったのは美容院経営の夫(36)とネイリストの妻(37)
亡くなったのは、松田政也さん(36)と妻の陽子さん(37)で、夫婦だった。 夫は美容院を経営し、妻はネイリストだったとされる。 知人の証言としては「人柄がよく、美容に熱心で素晴らしい人だった」という趣旨の言葉も報じられた。
事件・事故報道では当事者の生活が数字として語られがちだが、亡くなった方には当然、仕事も日常も、家族や仲間との時間もあった。 だからこそ、原因究明と再発防止は「次の被害を止める」だけでなく、 失われたものの重さに向き合う作業でもある。

現場は完全個室の会員制サウナ「サウナタイガー」 “プライベート”が売りだった
現場となったのは、約3年前にオープンした「サウナタイガー」とされる施設。 ペントハウス1つと個室5部屋の構成で、すべて貸し切りでの営業、 “完全プライベートでサウナを楽しめる”ことを売りにしていたという。 利用料金は1万9000円からと報じられている。
常連客の声として、「利用中に店員がどこにいるかも分からず、他の客と会うことも一切ない」など、 徹底したプライベート空間が特徴だったとも伝えられた。 しかしこの“誰にも会わない設計”は、トラブル時には気づかれにくさにもつながる。 個室サウナが抱える構造的な弱点が、今回あらためて注目されている。
当日の流れ:来店から約1時間後に通報 倒れていたのはサウナ室の出口付近
火災の通報があったのは15日正午ごろ。 夫婦はその約1時間前に来店していたという。 予約していたのは定員2名の部屋で、室内にはリクライニングチェアーが置かれたスペースがあり、 さらに奥にガラス張りで仕切られた一角として水風呂・シャワー・サウナ室が配置されていたと説明されている。 サウナ室は2.5畳ほどで、ロウリュウが楽しめる仕様だったという。
夫婦はサウナ室の出口付近で重なるように倒れていたとされる。 この「出口付近」という情報は、単なる位置情報ではない。 もしも逃げようとしていたのなら、“出たいのに出られなかった”可能性と結びつくからだ。 そして、その疑いを強める要素として「ドアノブ外れ落下」が報じられている。
“ドアノブ外れ落下”の衝撃 常連客も「取れるんじゃないかと思った」
捜査関係者によると、サウナ室の座る部分や背もたれが焼け、室内のタオルも燃えていたという。 一方で、警視庁は夫婦に腕や背中などのやけど痕はあったものの、命に関わるほどのものではなかったともしており、 いまの段階で「火事が原因で死亡した」と断定できる状況ではないとされる。
そんな中で決定的に注目を集めたのが、消防が現場到着時に目撃したという異変だ。 火災発生時、サウナ室のドアノブが内側と外側、両方とも外れて落ちていたという。 これによりドアが開かなくなり、夫婦がサウナ室内に閉じ込められた可能性があると報じられている。
さらに常連客のコメントとして、「使っていて取れるんじゃないかと思ったことがあった」 「(言い方は悪いが)ちゃちな作りだった印象。スーパー銭湯のドアノブのイメージとは違う」という趣旨も伝えられた。 ここが恐ろしいのは、ドアノブが外れることが“突発的な不運”ではなく、 兆候として感じ取られていた可能性を示す点だ。 もちろん最終的な原因は捜査・検証を待つべきだが、論点としては極めて重い。
非常ボタンは“電源切れ”? 押した形跡があっても作動しない恐れ
サウナ室内には非常ボタンが備え付けられていたとされる。 しかし、作動させようとした形跡がある一方で、16日の現場検証時に電源が入っていなかったことが新たに分かったという。
この点が事実なら、非常ボタンという「最後の頼み綱」が機能しなかった可能性がある。 個室空間で、外部と遮断されやすい環境において、緊急連絡手段は生命線だ。 もし電源が切れていた、もしくは作動しない状態で運用されていたのだとすれば、 店側の安全管理が問われるのは避けられない。
ただし、ここも断定はできない。 「いつから電源が切れていたのか」「切れていた理由は何か」「正常時の運用はどうだったのか」など、 現時点では不明点が多い。 だからこそ警察は、安全管理に問題がなかったかどうかを含めて詳しく調べているとされる。
個室サウナの安全対策:法律・条例の“許可”と、運用の“実効性”は別問題
サウナブームを受け、施設数は増え続けている。 一般論として、サウナ施設は公衆浴場法や消防法、自治体の条例など複数の基準を満たさなければ開業できない。 しかし許可があることと、日々の運用で安全が担保されることは同義ではない。
取材に登場した別施設の支配人は、事故や体調不良があった場合はサウナ室内の非常ボタンを押してもらい、 バックヤードでアラームが鳴ってスタッフが駆けつける流れを説明していた。 つまり、個室サウナの安全は 「非常時に作動する仕組み」+「駆けつける人」のセットで成立する。 どちらかが欠けると、急激に脆くなる。
“ドアノブ式”は珍しい? 「中から押して出る」構造が一般的という指摘
別施設の支配人は、火災が起きた施設のようにドアノブがついているケースは珍しいとも話していた。 サウナから出るときは「中から押す」のが一般的で、ドアの構造に厳密な規定があるわけではない、という趣旨の説明もある。
ここで問われるのは、“規定がない”こと自体ではなく、 規定が薄い領域ほど運営側が自主的にフェイルセーフ(壊れても逃げられる)を設計する必要がある、という点だ。 ドアノブが壊れたら「出られない」構造は、個室サウナのように外部の目が届きにくい空間では致命的になり得る。
運営会社は当面の営業停止を発表 原因究明と再発防止へ
警視庁は司法解剖で死因を調べ、事故・事件の両面で捜査しているとされる。 一方、施設の運営会社は当面の営業停止を発表し、 関係機関と連携して原因究明と再発防止に取り組む趣旨のコメントを出したという。
いま必要なのは、ネットの憶測で結論を急ぐことではない。 点検記録、設備仕様、設置・保守の履歴、非常ボタンの電源状態の経緯、 当日の室内環境や火元の状況など、積み上げでしか真相は見えてこない。 そして、同種施設全体に通じる教訓としては、 「プライベート」と「安全」は両立させなければならないという一点に尽きる。
利用者目線でできること:入室前に“逃げ道”と“非常手段”を確認する
個室サウナが悪い、という話ではない。 ただ、目の届きにくい空間である以上、利用者側にも現実的な自衛が必要になる。 たとえば入室時に、次のような点を短時間でも確認しておくと安心材料になる。
- 扉が内側からスムーズに開くか(取っ手や押し戸の感触)
- 非常ボタンや連絡手段の位置が分かるか
- スタッフ呼び出しの方法(押したらどうなるか)が明確か
- 持ち込み禁止物(燃えやすい物、熱源になりうる物)のルールが徹底されているか
こうした確認は、気まずいことではない。 施設側が安全に自信を持っているほど、丁寧に説明できるはずだからだ。 “楽しむための場”だからこそ、入口で安全の確認を当たり前にする文化が必要なのかもしれない。
まとめ:鍵は「出られる構造」と「作動する非常ボタン」 個室サウナの盲点が露呈した可能性
赤坂の個室サウナ火災で亡くなったのは30代の夫婦だった。 ドアノブが外れて落下し閉じ込められた可能性、そして非常ボタンが電源切れだった疑い―― どちらも事実ならば、個室サウナの安全設計を根底から揺るがす要素になり得る。
ただし、死因や詳細な経緯は捜査中で、現時点で断定できないことも多い。 だからこそ、いまは結論を急がず、 検証結果が示す“穴”を業界全体で塞いでいくことが求められている。 同じような空間を利用する人が増えるほど、再発防止は急務だ。 まずは亡くなったお二人のご冥福をお祈りするとともに、原因究明が進むことを願いたい。

