2025年のミス・ユニバース世界大会にフィンランド代表として出場したサラ・ザフチェ氏が、いま思わぬ形で世界的な注目を集めています。SNS上で拡散された一枚の写真をきっかけに、「アジア人差別ではないか」と批判が殺到し、本人の釈明やミス・フィンランド協会の謝罪へと発展する大きな騒動となりました。
ここではこれまでの経緯を整理しつつ、問題視されている「つり目」ジェスチャーの背景や、国際コンテストに求められる感度についても見ていきます。
SNSで拡散された「つり目」写真とは
発端となったのは、サラ・ザフチェ氏が写った一枚の写真でした。写真の中の彼女は、両目の端を指で引き上げるような仕草をしながら笑っている姿で映っており、その画像には字幕で「中華料理」といった言葉が添えられていたといいます。
この組み合わせが、アジア人を揶揄する際に長年用いられてきた「つり目」のジェスチャーを連想させるとして、SNS上で瞬く間に拡散。特にアジア系のユーザーからは、
- 「典型的なアジア人差別のポーズにしか見えない」
- 「ミス・ユニバース出場者としてあり得ない振る舞い」
といった厳しい声が相次ぎました。ミス・フィンランドという肩書きの重さゆえに、問題は一個人の“悪ふざけ”では済まされないという空気が一気に高まっていきます。
本人の釈明「頭痛と目の痛みでこめかみを押さえていた」
騒動の拡大を受け、フィンランドのメディアはサラ氏本人に取材。報道によれば、彼女は問題の写真について次のような経緯を説明しています。
- 場所はレストラン
- そのとき頭痛と目の痛みを感じていた
- こめかみ付近を揉んだり押さえたりしている姿を、友人が面白がって撮影・投稿した
また、サラ氏は自身もこれまでに多くの差別を経験してきたと語り、人種差別行為を容認する立場では決してないと強調したとされています。
そのうえで、12月8日には自身のインスタグラムを更新し、明確な表現は避けつつも、
「私の行動が多くの方に不快感を与えたことを深く理解しており、心からお詫び申し上げます。それは決して私の意図したものではありませんでした」
と謝罪のメッセージを投稿。「ミス・フィンランド」という称号には大きな責任が伴うとして、今回の出来事を教訓に成長したいという反省のコメントも添えました。
それでも収まらない批判の声
しかし、本人の釈明や謝罪が出たあとも、SNS上の批判は簡単には収まりませんでした。
多くの人が問題視しているのは、「つり目」のポーズそれ自体が、長い歴史の中でアジア人への差別的な表現として使われてきたという点です。たとえ本人に差別の意図がなかったとしても、
- 差別の文脈を知らないまま同じポーズを取ってしまった鈍感さ
- その写真に「中華料理」といった字幕が重ねられていたこと
- その状態のまま公開を許容してしまった危機感の薄さ
などが、ミス・コンテストの代表としてふさわしいのかという疑問につながっています。
さらに、「差別を経験してきた当事者だと主張しながら、なぜこうした表現の危うさに気付けなかったのか」といった厳しい指摘も見られ、単なる「誤解」や「勘違い」では片付けられない問題だと受け止める人が多いことが浮き彫りになりました。
ミス・フィンランド協会が謝罪「徹底的に検証」へ
こうした状況を受けて、ミス・フィンランド協会も動きました。12月10日、公式インスタグラムを通じて声明を発表し、
「いかなる形においても人種差別や差別的行為を一切容認しない」
という姿勢を明確に表明。問題の写真や投稿の経緯について、「徹底的に検証する」とし、適切な対応を検討すると宣言しました。
協会としては、
- どのような状況で撮影・投稿に至ったのか
- なぜ差別的と受け取られうる表現を止められなかったのか
- 今後同様の事態を防ぐため、候補者や関係者にどのような教育・ガイドラインを設けるのか
といった点を整理し、国内外の批判に応える必要があります。世界大会の代表を選出する団体として、単に「本人の意図は違った」で終わらせるわけにはいかないという判断でしょう。
なぜ「つり目」ジェスチャーはここまで問題になるのか
今回の騒動の根底には、「つり目」のポーズが持つ歴史的な意味合いがあります。アジア系の容姿的特徴をからかう目的で、目尻を指で引き上げる仕草は、欧米を中心に古くから差別的なステレオタイプの象徴として使われてきました。
こうしたジェスチャーは、
- アジア人を一括りにした「モノ扱い」の視線
- 「外見=キャラクター」という短絡的なイメージ付け
- 笑いのネタとして使われることで差別意識が温存される構造
を強化してしまうと指摘されています。たとえ悪意がなくても、その表現がどのような歴史を背負っているのかを知ることが求められる時代になってきたと言えるでしょう。
特にミス・ユニバースやミス・フィンランドといったコンテストは、「多様性」「インクルージョン」を掲げているだけに、代表者の振る舞いにはより高いレベルの配慮が求められます。
国際コンテストに求められる「発信者としての自覚」
今回のケースは、SNS時代ならではのリスクも浮き彫りにしました。たとえ私的な場での軽いノリだったとしても、
- 写真や動画が一度オンラインに出れば、意図と切り離されて拡散する
- 一国の代表という肩書きが付いた瞬間、全ての発言・行動が「公的なメッセージ」として受け取られる
という現実があります。
だからこそ、国際コンテストの出場者や主催団体には、SNSリテラシーや差別表現に関する教育が不可欠です。単に「注意しましょう」で終わらせるのではなく、具体的な事例や歴史を共有し、何がどのように傷つけるのかを理解してもらう必要があります。
同時に、視聴者側にも「誰かを一方的に断罪して終わり」にせず、なぜその表現が問題なのかを丁寧に議論し、再発防止につなげていく姿勢が求められているのかもしれません。
まとめ──“一枚の写真”が突きつけた課題
サラ・ザフチェ氏の「つり目」写真をめぐる騒動は、たった一枚の画像から始まりました。しかしそこから、
- 本人の釈明と謝罪
- ミス・フィンランド協会の声明と徹底検証の約束
- 差別表現としての「つり目」ジェスチャーの歴史
- SNS時代における代表者の責任とリテラシー
といった、多くの論点が次々とあぶり出されました。
「意図はなかった」だけでは済まされない時代に、私たち一人ひとりがどこまで想像力を働かせられるか──。ミス・コンテストの世界から投げかけられたこの問いに、社会全体がどう向き合っていくのかが注目されます。
