台湾有事をめぐる発言で日中関係がピリつくなか、高市早苗首相の 「なめられない服選び」ポストにロックバンド・GEZANのボーカル、 マヒトゥ・ザ・ピーポーが噛みつきました。
「なんでこんなバカが国のトップなの?」というストレートすぎる一文は瞬く間に拡散され、 政治クラスタだけでなく音楽ファンも巻き込んだ大論争に発展しています。
発端は高市首相の「なめられない服」「マウント取れる服」発言
きっかけは、11月7日の衆院予算委員会でした。いわゆる“台湾有事”を想定した質疑で、 高市首相は「(中国が)戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、存立危機事態になりうる」と答弁。 集団的自衛権の行使に踏み込む可能性に触れたことで、中国側の反発を招き、緊張が高まったとされています。
その後の参院予算委員会では、参政党の安藤裕議員が 「世界のトップと交渉するなら、日本最高の生地と職人によるスーツを。 安物ではなめられる」と“ファッション論”を展開。
高市首相は「身を切る改革」の立場から高級スーツの新調には慎重な姿勢を示し、 「15年前の服も引っ張り出して着ている」と答えましたが、安藤議員は 「物持ちの良さではなく、日本の最高のものを総理として見せてほしい」と重ねて訴えました。
そして11月21日、高市首相はG20ヨハネスブルグ・サミットへの出発に合わせてX(旧Twitter)を更新。 南アフリカまで片道21時間・足掛け4日間の出張であることに触れながら、 「安物に見えない服」「なめられない服」を選ぶのに数時間かかったと明かしました。
注目されたのが、この一文です。
「外交交渉でマウント取れる服、無理をしてでも買わなくてはいかんかもなぁ」
G20は対立をあおる場ではなく、世界経済の安定と協調を目的としたフォーラム。 そこで「マウントを取る」という表現を持ち出したことに対し、 「外交を勝ち負けゲームのように捉えているのでは」「服装の問題ではない」といった批判が噴出しました。
GEZANマヒトゥ・ザ・ピーポー、怒りの引用ポスト
そんな高市首相のポストに真っ向から噛みついたのが、 4人組ロックバンドGEZAN(ゲザン)のフロントマン、 マヒトゥ・ザ・ピーポーです。
GEZANは2009年に大阪で結成。轟音ギターとサイケデリックなサウンド、 政治や社会問題にも踏み込む歌詞で熱狂的な支持を集めてきました。 フジロックをはじめ各地の大型フェスに出演し、2024年には中国ツアーを敢行。 さらに2026年3月には自身初となる日本武道館公演も控えており、 若いリスナーを中心に“カリスマ”と呼ばれる存在です。
直近では、BRAHMAN主催の尽未来祭 2025(Day3)に参加したばかり。 同じステージにはBRAHMANやLUNA SEAらが名を連ね、ロックファンの間でも大きな注目を集めました。
そんなタイミングで飛び出した“高市首相への怒りポスト”だったこともあり、 インパクトは一気に音楽シーンの外側まで拡散していきました。
マヒトは22日、高市首相の「マウント取れる服」ポストを引用する形で、 Xにこう投稿しました。
「マジでシンプルになんでこんなバカが国のトップなの? センス磨いてやるから GEZANの武道館こいよ。前売りかいとくから」
さらに、中国にもGEZANのファンが多いことに触れながら、
「そういう繋がりを断ち切りかねない高市総理の危険な感覚に警戒しない方がおかしくない?」
「君の上司が危うかったら疑うだろ?」
と指摘。「わたしの友達を汚すな」「誰一人として感性の旅を邪魔されたくない」とも発信し、 音楽家としての危機感をあらわにしました。
台湾や中国をめぐる緊張が高まるなかで、「政治家の一言が自分たちの活動やファンとのつながりを 断ち切るかもしれない」という当事者意識がにじんだメッセージと言えるでしょう。
「よく言った」と「言いすぎ」の間で揺れる世論
このポストをめぐって、ネット上では賛否両論が渦巻いています。
高市首相に批判的なユーザーからは、
「戦争に近づくような発言をしておいて、洋服でマウントとか、怒られて当然」
「海外のミュージシャンは政治発言が当たり前。日本でもアーティストが声を上げていい」
など、マヒトの“直球批判”を支持する声が多数上がりました。
一方で、
「どれだけ批判したくても『バカ』呼ばわりはどうなのか」
「首相への侮辱的な言葉は、主張の中身以前に反発を招く」
「GEZANは好きだけど、この言い方は炎上マーケっぽく見えてしまう」
など、アーティスト側の言葉遣いを問題視する意見も目立ちます。
また、高市首相の「洋服」ポスト自体に対しても、
「服装は国の代表として重要」「日本の最高のものを身に着けてアピールすべき」という肯定派と、
「見るべきは外交の中身であってブランドではない」「マウントを取る発想がズレている」という否定派に分かれ、 “服装と外交”“見た目と中身”をめぐる議論が続いています。
高市首相の“炎上体質”と、ロックサイドの危機感
高市首相はこれまでも、放送行政をめぐる文書問題や、強硬な安全保障発言などで たびたび炎上してきました。支持と不支持がはっきり分かれる政治家であることは確かで、 今回の「台湾有事」発言も、日中関係を一段と冷え込ませたと懸念する声が少なくありません。
そんななかで飛び出した「なめられない服」「マウント取れる服」ポストは、 政治の緊張感と、本人の感覚のズレを象徴する出来事として受け止められました。
そこに、アジア各地でライブを重ねてきたGEZANのボーカルが強い違和感をぶつけた形です。
マヒトの言葉は、ファンとのつながりや音楽活動そのものが、 政治の判断ひとつで簡単に分断されてしまうかもしれないという危機感の表れと見ることもできます。
とはいえ、総理大臣を「バカ」と呼ぶ表現は、賛同者以外を突き放してしまうリスクも大きく、 「もっと別の切り口で批判できたのでは」「ロックだから何を言ってもいいわけではない」 といった冷静な指摘も根強く残っています。
尽未来祭から武道館へ――音楽と政治はどこで交わるのか
11月24日、GEZANはBRAHMAN主催のフェス「尽未来祭 2025」DAY3で、 轟音とカオスに満ちたステージを披露しました。同じステージにはBRAHMAN、LUNA SEAらが並び、 “未来へ続くロックのあり方”を問うようなラインナップになっていました。
一方で、国のトップである高市首相は、世界経済の行方を左右しかねない場で 洋服や発言をめぐって国内外から厳しい目を向けられている。
そのギャップこそが、今の日本社会のねじれを象徴しているのかもしれません。
国のトップとカウンターなロックバンド。立場も言葉の温度もまったく違う両者の衝突は、 「音楽と政治は切り離せるのか?」という古くて新しい問いを、あらためて突きつけています。
2026年3月には、日本武道館でのワンマン公演が控えるGEZAN。
高市首相が、マヒトの言う「センスを磨きに」武道館へ足を運ぶことはおそらくないでしょう。 それでも、音と言葉で違和感を叫び続けるロックバンドと、 国の舵取りを任された総理大臣――この距離感が、これからの日本の空気を映し出す 一つの“温度計”になっていくのかもしれません。
